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近視はなぜ起こるのか―― 眼の成長と視覚入力の深い関係 ――(原因・基礎理論編)

こんにちは、謎のブロガーMです。
今回は「近視はなぜ起こるのか?」というテーマで、近視の発症メカニズムについて書いてみたいと思います。

少し長めで、ところどころ専門的な内容も含まれますが、
「近視って結局どうして進むの?」という疑問を、できるだけ分かりやすく整理することを目指しました。
難しく感じる部分もあるかもしれませんが、どうぞご容赦ください。

近年、近視の子どもが増えています

「小学生のうちから眼鏡が必要になった」
「毎年視力が下がっていると言われる」

こうした相談は、年々増えています。

スマートフォンやタブレット、勉強時間の増加が原因として挙げられることも多いのですが、近視は単なる生活習慣の問題ではありません。

眼の成長の仕組みと深く関係しています。

近視の本質は「眼の成長」にあります

近視の本質は、ピントが合わなくなること自体ではなく、眼(眼球)の成長のしかたにあります。
人は誰でも、生まれたときには眼の奥行きが短く、軽い遠視の状態です。

これは異常ではなく、正常な眼の発達の出発点です。

その後、体の成長とともに眼も後方へ伸び、ちょうどよい長さになると正視(遠くも近くもよく見える状態)になります。

しかし、その伸びが止まらずに続くと近視となり、さらに伸び続けると強度近視になります。
つまり近視とは、眼が必要以上に後方に伸びてしまった状態なのです。

眼は「見え方」を手がかりに成長している

成長期の眼は、無秩序に伸びているわけではありません。
網膜に入力される視覚情報を手がかりに、眼の成長の度合いが精密に調整されています。

とくに重要なのは、網膜に入力される像の状態、すなわち

・ピントが合っているのか、それとも前後にずれているのか

・物の形が分かる状態なのか、それとも形が分からない状態なのか

という情報です。

眼はこの「ピントのずれ」の情報を手がかりとして、自らの長さを調節しようとする性質を持っています。

この仕組みは、動物実験によって示されてきました。

近視化を説明する代表的なモデルとして知られているのが、

・レンズ誘発近視(lens-induced myopia)

・形態覚遮断近視(form-deprivation myopia)

という二つの実験モデルです。

これらのモデルは、ヒヨコ、ツパイ、サルなど複数の動物種で共通して確認されています。

レンズ誘発近視モデルは、網膜に入力されるピントのずれ(デフォーカス)が眼軸長の成長を方向づけることを最も分かりやすく示した実験です。

一方、形態覚遮断近視モデルは、ピント以前に、像の形が分かるかどうかそのものが眼の成長を強く制御していることを示した実験です。

つまり眼は、

・ピントのずれ

・ピント以前に、像の形が分かるかどうか

という二つの「見え方」の情報を手がかりとして、自らの長さを調節していると考えられています。

レンズ誘発近視:ピントのずれ「ボケ像(デフォーカス:defocus)」が眼を伸ばす

まず、網膜に入力されるピントのずれ(デフォーカス)が近視化を引き起こすことを示したレンズ誘発近視モデルについて説明します。

図1 レンズ誘発近視モデル:ヒヨコへの強度凹レンズ装用による近視誘導
凹レンズを負荷すると、網膜後方にピントがずれ、眼軸伸長が誘導され、実験近視が形成される。
※実際の実験では、ヒヨコの眼前に凹レンズ付きのゴーグル様装置を用いる。

この実験では、

  • 形は分かる
  • しかし焦点が網膜の後方に結ばれる

という状態が生じます。

網膜には、ピントのずれたボケ像(後方デフォーカス:焦点面が網膜の後方にある状態、後述*)が入力されます。

図2 凹レンズ装用によって生じる後方デフォーカス
強い凹レンズを装用すると、焦点は網膜の後方に形成される(後方デフォーカス)。網膜にはピントの合っていない像が入力されるが、像の形自体は保たれている。

この状態では、像の形そのものは保たれているものの、焦点が網膜の後方に位置しているため、網膜には「まだピントが後ろにある」という情報が伝えられます。

このボケ像に対して眼は、

「後方にピントが合う位置まで、眼を伸ばしたほうがよい」

と判断し、眼軸を後方へ伸ばします。

その結果、焦点面が網膜に一致する方向に眼球の後方伸長が起こり、近視化が生じます。

これが近視が起こり始める基本的な仕組みです。

図3 後方デフォーカスに対する眼軸伸長反応
後方デフォーカスの入力に対して、眼は焦点位置に一致するよう後方へ伸長する。この眼軸伸長が近視化の基本的な仕組みである。

このように、近視は網膜に入力されるピントのずれ(デフォーカス)に対する成長反応として生じる現象と考えられています。

これは、近くを見る際に調節が十分に行われないことで生じる調節ラグ(次編にて解説)と、本質的に同じ状況です。

つまり眼は、網膜に入力されるピントのずれの方向を手がかりとして、自らの長さ(眼軸長)を調節していると考えられています。

*本稿でも一般的な日本語の解説に倣い、焦点が網膜の手前にある状態を前方デフォーカス、焦点が網膜の後方にある状態を後方デフォーカスと表記する。なお、近視・正視化(emmetropization)に関する主要な研究論文では、デフォーカスに対してこれらの方向ラベルは用いられず、「焦点面が網膜の前か後か(in front of the retina / behind the retina)」という形でデフォーカスの状態が記述されるのが一般的である。

形態覚遮断近視:ボケ像とは異なる「形の情報欠如」による近視化

これに対して、ボケ像とは異なる視覚入力によって近視が強く誘発されるモデルも知られています。

それが「形態覚遮断近視(form deprivation myopia)」です。

図4 形態覚遮断近視モデル:アカゲザルの片眼瞼縫合による近視誘導
瞼を縫合して形態覚を遮断すると、網膜に鮮明な像が形成されなくなり、眼軸伸長が誘導され、実験近視が形成される。

サルの瞼を縫合して閉じたままにすると、外界の形や輪郭といった情報(形態覚)は、ほとんど網膜に伝わらなくなります。

一方で、光そのものは完全には遮断されず、網膜には到達します。

この状態は、

・明るさは分かる

・しかし、ボケ像どころか形が分からない

という形態覚遮断(form deprivation)の状態です。

ここで重要なのは、これは「ボケ像」とは異なる視覚入力であるという点です。

このような形態覚遮断状態が続くと、実験動物では眼が高度に後方へ伸び、レンズ誘発近視モデルよりもさらに強力な近視化が起こります。

つまり、形の情報が適切に入力されないこと自体が、眼の後方伸長を強く促すのです。

暗黒環境では近視は起こりにくい

しかし興味深いことに、瞼縫合を行っても、完全な暗闇(暗黒環境)で飼育すると結果は変わります。

暗黒環境では、

  • 光がほとんど網膜に届かない
  • 形態情報だけでなく、光刺激そのものもほぼ存在しない

という状態になります。

このような条件下では、少なくとも一部の霊長類モデルにおいて、眼軸の後方伸長が起こりにくくなり、近視化が抑えられることが報告されています。

重要なのは、暗黒環境では網膜に入力される視覚情報がほとんど存在しないという点です。

瞼縫合では、形の情報は得られなくても光刺激は網膜に届いており、不完全ながら視覚入力が残っています。

一方、暗黒環境では光刺激そのものが遮断され、網膜への視覚入力はほぼ消失します。

この対比から分かるのは、近視化に重要なのは単に「見えないこと」ではなく、視覚入力が存在するにもかかわらず形の情報が適切に得られない状態が続くことである、という点です。

すなわち、視覚入力そのものがほとんど存在しない暗黒環境では、眼の後方伸長を促す刺激が成立しにくく、そのため近視化は起こりにくくなります。

なぜ「周辺網膜」が重要なのか

ここで重要になるのが、視覚情報が網膜のどこに、どのように入力されるかという点です。

網膜の中心部は、細かい形や文字を識別する役割を担っています。

しかし、眼の成長、とくに眼軸長の調節においては、周辺網膜がより重要な役割を果たしていることが分かってきています。

周辺網膜では、ピントのずれ(デフォーカス)が

・広い範囲に
・長時間
・同じ方向に

入力されやすいという特徴があります。

中心網膜では、視線の移動や調節の変化によって像の状態が頻繁に変わりますが、
周辺網膜では、こうした変化が少なく、同じ性質のボケが持続的に入力されやすくなります。

その結果、周辺網膜では視覚情報が平均化されにくく、

ピントが網膜の前にあるのか

それとも後ろにあるのか

といったデフォーカスの「方向性」が、成長制御の信号として明確に残ります。

ここで重要なのは、そのデフォーカスがどちらの方向にずれているかという点です。

近視性デフォーカスとは、光が網膜の手前で収束している状態(前方デフォーカス)を指し、眼軸の伸長を抑える方向の信号として働くと考えられています。

一方、遠視性デフォーカスとは、光が網膜の後方で収束している状態(後方デフォーカス)を指し、眼軸の伸長を促す方向の信号として働くと考えられています。

成長期の眼では、とくに周辺網膜において、このデフォーカスの状態が長時間同じ方向に入力され続けることが、眼の成長方向を決める重要な要因になります。

つまり、周辺網膜に近視性デフォーカス(前方デフォーカス)が持続する場合、眼はそれを

「すでに十分に伸びている」

という情報として受け取り、眼軸の伸びを抑える方向に反応します。

一方で、周辺網膜に遠視性デフォーカス(後方デフォーカス)が持続する場合には、

「まだピントが後ろにある=伸びが足りない」

という信号として解釈され、眼の後方伸長、すなわち近視化を促す方向に反応します。

このように、周辺網膜にどの方向のデフォーカスがどれくらいの時間入力され続けるかが、成長期の眼の伸び方を左右する重要な要因と考えられています。

視神経を切断すると近視化を抑えられるのか

では、このような成長制御の信号は、中枢を介して働いているのでしょうか。

動物実験からは、近視化は基本的には網膜から強膜に至る眼内局所の成長制御機構によって成立しうることが分かっています。

実際、ヒヨコなどのモデルでは、視神経を切断しても近視化が成立することが知られています。またツパイにおいても、条件によっては視神経切断しても近視化が成立することが報告されています。これは、眼軸伸長が眼内局所の成長制御機構によって成立し、近視化が中枢を介さなくても生じうる現象であることを示しています。

一方で、霊長類を中心とした動物モデルでは、視神経切断によって近視化が抑制される場合があることが報告されています。

ただし、サルの種類や実験条件によっては視神経を切断しても近視化が成立することも報告されており、霊長類においても中枢の関与は必須ではない可能性が示されています。

このことは、眼の後方への伸びが基本的には網膜で受け取るピントのずれや像の形の情報によって制御されている一方で、その程度は条件によって視神経を介した中枢の影響を受けうることを示しています。

図5 視神経切断によって抑制されるレンズ誘発近視モデル
霊長類モデルでは、視神経切断によって近視化が抑制されることがあり、眼軸伸長の制御に中枢が関与する場合があることが示されている。

視神経切断は、網膜には視覚刺激が存在していてもその情報が中枢に伝達されないという点で、暗黒環境と機能的に共通する側面を持っています。すなわち、成長制御に利用される視覚入力が実質的に制限された状態になるためです。

このように、視神経切断に対する反応には動物種差がみられ、ヒヨコでは近視化が成立するのに対し、霊長類では抑制される傾向があり、ツパイはその中間的な反応を示します。

このことは、近視化の制御における中枢の関与の程度が動物種によって異なる可能性を示しています。

表1 動物種による暗黒環境・視神経切断への実験近視反応性の違い

近視は「強膜リモデリング」で進行する

近視の進行において重要な役割を果たしているのが、「強膜リモデリング(強膜再構築)」と呼ばれる現象です。

強膜は眼球の外壁を形成する強靭な組織で、本来は眼の形を保つ役割を担っています。

しかし成長期に近視化を促す視覚刺激が持続すると、強膜の組織構造や代謝が変化し、眼球の後方が伸びやすい状態へと作り替えられていきます。

このように近視は単に「引き伸ばされる」のではなく、視覚入力をきっかけとして強膜で組織の分解と再合成が繰り返され、眼球の後部が伸びやすい性質へと変化することで進行すると考えられています。

近視発生の基本的なしくみ

以上の実験結果から、近視は次のような流れで生じると考えられています。

・ボケ像(デフォーカス:ピントのずれ)

・形態覚遮断(形が分からない状態)

このような不適切な視覚入力が網膜に入ると、その情報はまず網膜内で処理され、条件によっては視神経を介して中枢にも伝達されます。

その結果、

・網膜から強膜に至る眼内局所の成長制御機構

・場合によっては視神経を介した中枢の関与

の両者を通じて、眼の後方伸長が促されます。

つまり近視は、

網膜に入力された視覚情報が、網膜から強膜に至る眼内局所の成長制御機構と場合によっては視神経を介した中枢経路の双方に影響を与えることで生じる複合的な眼の成長反応と考えられています。

同じ刺激でも結果は個体によって異なる

ただし、同じ視覚刺激が与えられても、すべての眼が同じように反応するわけではありません。

動物実験では、近視化の起こりやすさや進行の程度には同じ動物種の中でも差がみられ、さらに同じ条件の視覚刺激を与えても個体によって反応の程度が異なります。

実際に、同一の視覚刺激(ピントずれや形態覚遮断)を与えても、著明な眼軸伸長を示す個体がいる一方で、ほとんど反応を示さない個体も存在します。

こうした種差や個体差の存在は、近視が

・視覚入力や眼の使い方、光環境といった環境要因だけでなく

・眼の成長反応の強さを規定する遺伝的な素因(近視になりやすさ)

の影響を受けていることを示しています。

人においても、同じ生活環境で育っていても、兄弟や家族の間で近視の進み方が異なることは決して珍しくありません。

これは、近視が「環境か遺伝か」という単純な二者択一ではなく、環境要因と遺伝的背景が重なり合って現れる病態であることを示しています。

まとめ:近視は「成長の個人差」

近視の本質は、眼の成長にあります。

成長期の眼は、網膜に入る見え方の情報を手がかりとして、その長さを調節しながら発達しています。

この時期に、ピントが合わない状態や、像の形の情報が不十分な視覚環境が続くと、眼の後方伸長の制御が過剰になり、眼軸が伸びて近視が進行します。

ただし、その反応の強さは人それぞれであり、日常の眼の使い方とともに、遺伝的ななりやすさも影響していると考えられます。

つまり近視とは、「成長の個人差」として現れる眼の反応の一つなのです。

だからこそ近視は、「仕方がないもの」ではありません。

成長期にどのように眼を使うかを意識することで、近視の進行を抑えられる可能性があります。

次回予告

では、近視が「眼の成長」の問題であるとしたら、なぜ現代では、これほど多くの子どもでその成長が止まらず、進み続けてしまうのでしょうか。

次回は、近くを見る時間が長くなったとき、眼の中で実際に何が起きているのかを、
調節ラグ周辺のピントずれといった視覚入力の観点から、もう一歩踏み込んで整理してみます。

 
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