「そんなに悪く見えない」のに、異常に痛い―― アカントアメーバ角膜炎 ――
今日は5月5日、子供の日です。
この日に、少しだけ個人的なお話から始めさせてください。
子どもたちは中学受験の頃から、それぞれに目標を持ち、日々の勉強を重ねてきました。
振り返れば、その時間に私自身も深く関わりながら、まさに二人三脚で歩んできた年月だったように思います。
そして今年、3番目の息子も医師国家試験に合格し、これで全員が同じ道に進むことになりました。
長く続いた一つの流れが、ようやく形になった――そんな感覚があります。
少し大げさかもしれませんが、ひとまずはミッションコンプリート、といったところでしょうか。
これからは夫婦で、自分たちの時間も大切にしていきたいと思っています。
本日は、初診時の自覚症状と眼所見のわずかな“ズレ”が、見逃してはならない重要なサインとなった症例をご紹介します。
「それほど悪くないのに、異常に痛い」
眼科外来では、
「見え方はそれほど悪くないのですが、痛みが強くて……」
という訴えを、ときどき耳にします。
多くの場合、その痛みは角膜上皮の障害や炎症で説明がつき、点眼治療によって速やかに軽快していきます。
しかし、ときにその説明が、どうしても腑に落ちないことがあります。
この症例でも、当院初診時の視力は保たれていました。
一方で患者さんは、「とにかく痛い」「目を開けていられない」と、強い眼痛を繰り返し訴えていました。
見え方と痛みの強さが、どうしても釣り合わない。
ここに、最初の違和感がありました。
所見と症状が一致しないという違和感
角膜の障害が軽度であれば、通常、痛みもそれなりの強さに収まります。
ところがこの症例では、角膜所見から想像される以上の、強い眼痛がありました。
このような
「所見の軽さ」と「症状の強さ」の食い違いは、
診断のうえで見逃してはいけないサインです。
なぜ強い痛みが生じるのか
アカントアメーバは、角膜知覚神経に沿って角膜深部へと侵入すると考えられており、いわゆる放射状角膜神経炎(radial keratoneuritis)を伴うことがあります。
このため、初期には角膜上皮や実質の変化が乏しく見える一方で、神経そのものが刺激されることで、患者さんは説明のつかない、耐えがたい痛みを感じることがあります。
すなわち、
「見た目の軽さ」と「痛みの強さ」が乖離する。
――それが、この疾患に特徴的な臨床像です。
SCL使用という重要な手がかり
もうひとつ重要だったのが、この患者さんがソフトコンタクトレンズ(SCL)使用者であったことです。
強い眼痛に加え、角膜輪部の強い充血と浮腫、さらにソフトコンタクトレンズの使用歴がある。
こうした所見がそろった場合、たとえ角膜の変化が目立たなくても、初期の放射状角膜神経炎が隠れていないかを念頭に置き、意識して角膜所見を探す必要があります。
初期のアカントアメーバ角膜炎は、慎重に「探しにいって」はじめて見つかることが、決して少なくありません。
アカントアメーバ角膜炎の眼所見
私がこの患者さんを診察した時点では、角膜輪部の充血と浮腫が強く、角膜にうっすらとした角膜実質混濁が認められていました。

角膜の内側に、楕円形の輪の形をした淡い濁り(角膜実質の混濁)がみられます。
黒目の周囲には充血と浮腫が認められ、典型的な円板状角膜炎が出現する前段階の所見と考えられます。
明らかな輪状角膜潰瘍や、典型的な円板状角膜炎といった進行例にみられる所見は認められておらず、この段階で診断と治療に至ったことで、視機能を守るための介入は十分に可能でした。
アカントアメーバ角膜炎は、頻度の高い疾患ではありません。
しかし、見逃した場合の代償は極めて大きく、
ときに重篤な視機能障害を残し、角膜移植を要することもあります。
痛みが、診断を導く
この症例は、「痛みの強さ」そのものが、
最も重要な診断の手がかりとなり得ることを、あらためて示してくれました。
そして――
「そんなに悪く見えない」のに、異常に痛い。
この違和感こそが、
見逃してはならないサインなのです。
