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レッドライト治療はどこまで有効なのか―― 新しい近視治療をどう考えるか ――

お盆休み、城ヶ島に今年新しい旅館ができたとのことで、行ってきました。

ひそかにこのブログを綴っている、謎のブロガーMです。

城ヶ島を訪れたのは久しぶりです。前回来たのは、長男が4歳、次男が3歳、三男がまだ0歳の頃でした。

その時に子どもたちと遊んだ入り江の浅瀬は、今も当時とほとんど変わらないままでした。

長男と次男が海に入り、三男はバギーに乗せて、子どもたちが深いところへ行かないよう、私が少し沖に立って眺めていた――そんな光景が、ついこの間のことのように思い出されます。

しかし、あれから30年近く。

全く変わらない入り江を眺めながら、夫婦で月日の流れを感じました。

光陰矢の如し。

人の時間は流れていっても、この入り江の自然はほとんど変わりません。

悠久の地球の時間の中では、人間の一生などほんの一瞬なのだろうと思うと、その短さとはかなさを改めて感じます。

さて、前置きが長くなりました。

今回は、前回のVLによる近視抑制の話に続いて、もう一つの「光」を使った近視治療について触れてみたいと思います。

レッドライト治療です。

近年、近視進行抑制の新しい方法として「レッドライト治療(repeated low-level red light therapy:RLRL therapy)」が大きな話題になっています。

特に中国を中心に臨床研究が進み、650nm前後の赤色光を低出力で眼に照射することで、近視の進行、とりわけ眼軸長の伸長を抑えられる可能性が報告されるようになりました。

そして2021年、Ophthalmology 誌に、小児を対象とした多施設ランダム化比較試験(RCT)の結果が報告されました。

その効果は、これまでの近視抑制治療と比較しても驚くほど大きなものでした。

これを契機として、レッドライト治療は世界的に大きな注目を集めることになります。

治療方法は非常にシンプル

治療方法は驚くほどシンプルです。

用いられる光は約650nmの赤色光で、組織を焼灼するようなレーザー治療ではなく、低出力の可視光を用いた照射治療に近い方法です。

専用の装置を覗き込みながら、

・1回3分

・1日2回(4時間以上間隔を空ける)

照射を行います。

家庭で実施できる治療であり、操作も難しくありません。

本研究の主要解析であるITT解析では、眼軸長伸長で約69%、屈折度数でみた近視進行で約77%の抑制効果が示されました。この点は、VL眼鏡のRCTがITT解析では、明確な有意差が示されなかったことと対照的です。

さらに、遵守率の高い参加者では、屈折度数でみた近視進行が約90%抑制されたという結果も報告されています。眼軸長伸長についても約77%の抑制効果が示されました。

もしこのレベルの抑制効果が再現されるのであれば、現在報告されている近視進行抑制治療の中でも、きわめて高い効果ということになります。

本当に60~90%もの抑制効果が得られるのか

しかし、ここで臨床の現場にいる立場として、少し気になる点があります。

現在広く行われている主な近視進行抑制治療としては、

・オルソケラトロジー

・多焦点コンタクトレンズ/多焦点眼鏡

・低濃度アトロピン点眼

などがあります。

これらの治療は多くの研究が積み重ねられており、近視進行抑制効果はいずれも一定程度確認されています。

多焦点レンズでは30〜50%前後、

オルソケラトロジーでは40〜60%、

低濃度アトロピンでは濃度により30〜60%程度(0.05%で最も高い)

の近視抑制効果が報告されています。

それらと比べると、60~90%という数字はかなり大きい印象を受けます。

もちろん、新しい治療が従来より高い効果を示す可能性はあります。

しかし医学の世界では、最初に報告された効果が、その後の追試によってやや小さくなることも珍しくありません。

レッドライト治療についても、今後さまざまな研究グループによる検証が積み重ねられるにつれ、実際の有効性がより明らかになってくると考えられます。

なぜ赤色光で近視進行が抑えられるのか

実は、このメカニズムはまだ十分には解明されていません。

いくつかの仮説が提唱されています。

一つは、脈絡膜の変化です。

脈絡膜は網膜の外側にある血流の豊富な組織で、眼軸成長の調節に関与していることが知られています。

赤色光照射の研究では脈絡膜厚の増加が報告されており、血流変化などを介して眼球の成長シグナルに影響していることが示唆されています。

もう一つ議論されているのが、網膜神経系の関与です。

網膜では、光刺激、とくに高照度の光刺激によって神経伝達物質ドーパミンが分泌され、これが眼軸伸長を抑制する方向に働くことが知られています。

屋外活動が多い子どもほど近視が少ないという現象にも、ドーパミン分泌の増加が関与していると考えられています。

ただし、これらの知見は主に高照度環境で得られたものであり、赤色光照射において同様の機序が働いているかどうかは分かっていません。

赤色光照射も、網膜神経系に作用して眼球成長に何らかの影響を及ぼしている可能性はありますが、その作用機序はまだ明確には分かっていません。

ブルーライト仮説との関係

ここで少し興味深い点があります。

レッドライト治療は、これまで近視研究の中で議論されてきた

「短波長光(ブルーライト〜バイオレット光)が近視進行抑制に関与する」

という仮説と、ある意味で対照的に見えるからです。

もし短波長光が近視進行抑制の主要な要因だとすれば、長波長光のレッドライトで強い抑制効果が報告されていることは、単純には説明しにくいようにも思えます。

ただし、ここで注意が必要なのは、現時点でのエビデンスレベルには大きな差があるという点です。

短波長光による近視進行抑制については、現在もなお仮説段階の部分が多く残されています。実際、VL眼鏡のRCTでも、主要解析では有意差はありません。

一方で、長波長光(レッドライト)による近視進行抑制については、臨床研究が進み、RCTの主要解析でも有意差が認められています。さらに、サブグループ解析では極めて高い効果が示されています。

また、中国ではレッドライト治療(RLRL治療)が近視進行抑制を目的として臨床で使用されています。

その長期的安全性や効果の再現性については、今後さらに検証が必要ですが、少なくとも現時点では、仮説段階にあるVLと臨床応用されているレッドライト治療では、臨床的エビデンスの蓄積に大きな差があります。

もっとも、理論的に矛盾して見える現象であっても、実際の臨床効果とは必ずしも一致しないことがあります。

近視進行には、

・光の波長

・光の強さ(照度)

・照射の時間パターン

・網膜神経系の反応

・脈絡膜血流

など、複数の要素が複雑に関与していると考えられています。

レッドライト治療の研究は、近視の進行機序が特定の波長だけではなく、さまざまな光環境の要素によって調節されている可能性を示しているのかもしれません。

安全性について

もう一つ忘れてはならないのが、安全性の問題です。

レッドライト治療は可視光を用いた治療であり、眼への影響が懸念される紫外線とは異なる波長を使用しています。

また、出力も低いレベルに設定されています。

現在までの臨床研究では、不可逆的な視機能障害などの重大な有害事象は明確には確認されていません。

一方で、治療後に一過性の視力低下とOCT上の網膜変化を認めた症例報告もあります。

また、レッドライト装置は機種によって照射強度などが異なり、一部の装置では網膜への最大許容曝露量(MPE)に近づく、あるいは超える可能性も指摘されています。

したがって、「赤色光だから安全」「低出力だから安全」と単純に考えることはできず、使用する装置そのものの安全性評価も重要です。

網膜は光を感じる組織であると同時に、光の影響を受けやすい組織でもあります。

たとえ短時間の照射であっても、毎日長期間にわたり光刺激を受ける治療である以上、長期安全性については今後も注意深く検証する必要があります。

現在報告されている研究の多くは、1〜2年程度の観察期間にとどまっています。

小児期を通じて継続される可能性のある治療であるため、より長期の安全性データの蓄積が求められます。

社会的な広がりと使用上の注意点

中国ではこの治療が急速に普及し、医師の十分な管理を受けずに、市販やオンライン経由で装置が流通しているケースも指摘されています。

適応のない子どもへの使用や過剰照射などが問題となり、現在も安全性や使用方法をめぐる議論が続いています。

近視進行抑制を目的とした治療は、本来、適応の判断や経過観察を含めて、適切な医師の管理のもとで行われるべきです。

新しい治療ほど、その有効性だけでなく、安全性や適切な使用条件を確認しながら導入することが重要です。

まとめ:レッドライト治療は「検証の途中にある新しい選択肢」

レッドライト治療は、近視進行抑制の分野で近年注目されている新しい治療法の一つです。

一方で、

・作用メカニズム

・長期安全性

・適切な対象

については、まだ研究が続いている段階でもあります。

近視治療は一つの方法だけで決まるものではなく、

・生活環境

・屋外活動

・光学的介入

・薬物療法

などを含めて総合的に考える必要があります。

レッドライト治療も、そのような選択肢の一つです。

現時点では、有効性が示唆されている新しい治療法として、既存の近視進行抑制法と同様に慎重に評価することが重要です。

 
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