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近視の進行をどう止めるか――見え方そのものを変える治療:オルソケラトロジー ―― (治療・介入編①)

毎日寒い日が続きますね。

暖かい部屋でお気に入りのワインを飲む――

それが、至福のひとときです。

密かにこのブログを綴っている、
謎のブロガーMです。

さて今回は、
いよいよ「近視の治療・介入」の話に入ります。

これまでのブログでは、

  • 近視は「視力の低下」ではなく「眼の成長」の問題であること
  • 成長期の眼は、網膜に入る視覚情報を手がかりに伸び方を調整していること
  • 調節ラグや周辺デフォーカスといった

「誤った成長信号」が、近視進行に関与していること

を整理してきました。

今回はいよいよ、
こうした理論を踏まえた「治療・介入」の話に入ります。

その最初として取り上げるのが、
オルソケラトロジーです。

オルソケラトロジーとは何か

オルソケラトロジーは、
夜間に特殊なハードコンタクトレンズを装用することで、角膜形状を一時的に変化させ、
日中は裸眼で過ごせるようにする治療法です。

この治療の目的は、
単に「裸眼視力を良くすること」ではありません。

近年、オルソケラトロジーが注目されている最大の理由は、
近視の進行抑制効果にあります。

なぜオルソケラトロジーが近視進行を抑えるのか

ここで、これまでのブログで説明してきた
周辺デフォーカス(軸外収差)理論が重要になります。

近視の眼では、

  • 中心ではピントが合っていても
  • 周辺網膜では、像が網膜の後方にずれる

という状態が生じやすいことを説明しました。

図1 周辺網膜で生じる後方デフォーカス
正面を注視している中心網膜では像ははっきりと結像しているが、周辺網膜では光が網膜の後方で収束し、網膜面では持続的なデフォーカス(後方デフォーカス)が生じている。
ここでいうデフォーカスの記載基準については、以前のブログで説明した用語の整理に基づいている。

この 周辺網膜での後方デフォーカスは、
「まだ眼を後方に伸ばしたほうがよい」という成長信号として働く可能性があります。

オルソケラトロジー後の眼では何が変わるのか

オルソケラトロジーでは、
夜間装用によって角膜の形状が次のように変化します。

  • 中央部:扁平化(フラット)
  • 周辺部:相対的に急峻化
図2:オルソケラトロジーによる角膜形状変化と周辺デフォーカスの変化
角膜中央の扁平化と周辺部の相対的急峻化により、
周辺網膜での後方デフォーカスが軽減され、
網膜面付近、あるいは網膜よりやや前方に結像しやすい状態が形成される。

この角膜形状の変化によって、

  • 中心視では、良好な視力が保たれ
  • 周辺網膜では、従来みられていた後方デフォーカスが軽減され、
    像が網膜面付近に結ばれやすくなり、場合によっては網膜よりやや前方に結ばれる状態(前方デフォーカス)が生じます。

つまり、周辺網膜において、

  • 近視化を促す後方デフォーカスではなく
  • ほぼ正焦点、あるいは前方デフォーカスに近い結像状態


が形成されることで、
眼軸伸長を抑制する方向の視覚入力が与えられると考えられています。

このようにオルソケラトロジーは、
周辺網膜での後方デフォーカスを減弱させ、
眼の成長に「ブレーキ」をかける方向へ視覚環境を変化させる治療
と位置づけることができます。

オルソケラトロジーは「成長信号を書き換える治療」

ここが重要なポイントです。

オルソケラトロジーは、

  • 眼を鍛える治療でも
  • 眼を引き戻す治療でもありません

成長期の眼に入る視覚情報そのものを変えることで、
眼に送られる成長信号を書き換える治療です。

言い換えると、

「これ以上、後ろに伸びなくてよい」

という情報を、毎日、網膜に入力し続ける治療と考えることができます。

調節ラグとの関係

前回までに説明したように、

  • 近距離作業では調節ラグが生じやすく
  • それが、弱いながらも持続的な近視化刺激となりうる

という点も重要でした。

オルソケラトロジーは、
この 調節ラグそのものを直接「治す」治療ではありません。

しかし、

  • 周辺網膜での前方デフォーカス
  • 強膜リモデリングに対するブレーキ

を通じて、

調節ラグと周辺デフォーカスが重なって生じる「誤った成長指令」を弱める方向に働く
と考えられています。

誰にでも適している治療ではない

もちろん、オルソケラトロジーは万能ではありません。

  • 適応となる近視度数
  • 角膜形状や安全性
  • 毎日の装用管理が可能かどうか

といった条件があります。

また、
「裸眼になれるから」だけで選ぶ治療ではない、という点も、知っておく必要があります。

まとめ:オルソケラトロジーは「理論に裏打ちされた治療」

オルソケラトロジーは、

  • 近視の原因
  • 進行メカニズム
  • 視覚入力と眼の成長の関係

を理解したうえで初めて、その意味が正しく見えてくる治療です。

近視治療は、
「何をどれくらい見えるようにするか」ではなく、
「成長期の眼に、どんな見え方を与え続けるか」を考える時代に入っています。

次回予告:他の治療はどう違うのか

次回以降は、

  • 多焦点眼鏡・多焦点コンタクトレンズ
  • 低濃度アトロピン点眼

といった、
他の近視進行抑制治療について、

  • どの成長信号に作用するのか
  • 何が同じで、何が違うのか

を、今回の理論と対応させながら整理していく予定です。

 
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