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目の前に浮かぶ影の正体―― 後部硝子体剥離と生理的飛蚊症 ――

「黒いものが飛んで見える」
「糸くずのような影が動く」

こうした訴えは、眼科外来で非常によく耳にします。一般に飛蚊症と呼ばれる症状です。

まず、はっきりさせておきたいことがあります。

飛蚊症の大部分は、後部硝子体剥離に伴う生理的な変化です。

生理的飛蚊症の正体とは

硝子体は、眼の中を満たしている透明なゼリー状の組織です。

若い頃は均一で張りがありますが、年齢とともに内部で水分と成分が分離し、全体がゆるみ、徐々に縮んでいきます。

そしてある時期に、硝子体の後面が網膜の表面から自然に剥がれます。

これが後部硝子体剥離です。

後部硝子体剥離が起こると、剥がれた硝子体の後面が網膜の前を漂う状態になります。

この構造物が網膜に影を落とし、

  • 糸くず
  • 虫のような像

として認識されます。

これを生理的飛蚊症と呼びます。

つまり、生理的飛蚊症とは、

剥がれた硝子体そのものを見ている状態

なのです。

図1 後部硝子体剥離による生理的飛蚊症の模式図
加齢に伴って硝子体が網膜から剥がれ、剥離した硝子体が網膜の前を漂うことで飛蚊症として自覚されます。多くは病気ではなく、正常な加齢変化です。

飛蚊症の見え方には個人差があります

飛蚊症の見え方は人によってさまざまです。

  • 糸くず状
  • ゴマ粒のような点
  • モヤっとした影
  • 虫が動くような像
  • 輪っか状の影

これらの違いは、硝子体の縮み方や剥がれ方、混濁の形が個々に異なるために生じます。

また、

眼を動かすと少し遅れて動く
追いかけると逃げるように感じる

という特徴もあります。

これは硝子体が眼の中でゆっくり動く構造をしているためです。

視線を動かした瞬間に同じ方向へ動くのではなく、わずかに遅れて揺れるように移動するため、「捕まえられない影」として認識されます。

そして時間の経過とともに、多くの場合は脳が慣れて、次第に気にならなくなっていきます。

病気による飛蚊症もあります

ただし、臨床の現場では、同じ「飛蚊症」という言葉で表されても、原因や意味が大きく異なるタイプが存在します。

たとえばぶどう膜炎などの炎症がある場合、

炎症細胞や蛋白成分が硝子体内に出現し、炎症性の硝子体混濁を生じます。

このような状態による飛蚊症を炎症性飛蚊症と呼びます。

図2 ぶどう膜炎による炎症性飛蚊症の模式図
炎症によって硝子体内に細胞や蛋白成分が出現し、硝子体混濁を生じた状態です。煙がかかったように見える飛蚊症や、視力低下を伴うことがあります。

特徴としては、

  • 煙がかかったように見える
  • 日によって見え方が変わる
  • 視力低下を伴うことがある

などがあり、生理的飛蚊症とは異なる経過をとります。

突然増えた場合は注意が必要です

また、硝子体内に出血が起こると、飛蚊症は突然、かつ大量に出現します。

このように硝子体出血によって生じる飛蚊症を出血性飛蚊症と呼びます。

「黒い雨が降るように見える」

と表現されることもあります。

その背景には

  • 網膜裂孔
  • 網膜剥離
  • 糖尿病網膜症
  • 網膜血管の病気
  • 外傷

などが隠れていることがあります。

図3 網膜裂孔・網膜剥離に伴う出血性飛蚊症の模式図
網膜の裂け目や剥離により硝子体内に出血が起こり、血液が飛蚊症として見えています。急激に数が増えたり、黒い影が広がったりする場合には、早急な診察が必要です。

受診の目安になるサイン

特に重要なのは、

急に見え方が変わったかどうか

です。

次のような変化があれば、早めに眼科で確認する必要があります。

  • 飛蚊症が急に増えた
  • 黒い影が視界の一部を占めるようになった
  • ススのように見える
  • 光が走る感じ(光視症)を伴う

まとめ

飛蚊症の多くは、心配のいらない加齢による変化です。

しかし、ごく一部に見逃してはいけないサインが紛れていることもあります。

同じ症状に見えても、その意味は大きく異なります。

だからこそ、

気になる変化があれば、一度眼科で確かめておくことが大切です。

 
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