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本当はこわい口内炎― それが全身疾患の最初のサインである難病がある ―

口内炎は、日常診療でもよく耳にする症状です。疲れたときや体調を崩したときに一時的に出現し、数日で自然に改善することも少なくありません。
そのため多くの場合、「よくある症状」として経過を見られています。

しかし臨床の現場では、口内炎が全身疾患の最初の兆候であったというケースに、時折遭遇します。

繰り返す口内炎の背景にあるもの

ベーチェット病は、口腔内潰瘍(口内炎)を初発症状とすることの多い、慢性炎症性の全身疾患です。
口内炎に加えて、眼の炎症(ぶどう膜炎など)、皮膚症状、陰部潰瘍、関節症状、腸管病変などを伴うことがあり、特に眼病変は視機能に重大な影響を及ぼす可能性があります。 眼科診療に携わっていると、「以前から口内炎を繰り返していた」という既往が、後になって重要な意味を持つことを実感する場面が少なくありません。

眼症状は、ある日突然現れる

ベーチェット病では、最初に現れる症状が口内炎のみである期間が、数年に及ぶことがあります。
その間、患者さん自身も、また医療機関においても、特に大きな異常を指摘されることなく経過している場合が少なくありません。

しかし、ある時点で突然、霧がかかったように見える(霧視)、視力の低下、眼の充血や痛みといった眼症状が出現し、初めて眼科を受診されるケースがあります。
この段階でみられる眼炎症は、それまで無症状であったことが嘘のように、急速に高度の視機能障害を引き起こすことがあり、早期の診断と治療が必要となります。

地域差のある疾患 ― 現地で見た臨床像

ベーチェット病は、中近東から地中海沿岸、さらに東アジアにかけて、いわゆるシルクロード沿岸諸国に多い疾患として知られています。日本も、この疾患の高頻度地域のひとつに含まれます。

これまでの診療・研究活動の中で、現地を訪れ、患者さんの診療や調査に携わる機会もありました。
そこでは、口内炎が「体質的なもの」として長年受け止められ、眼症状が出て初めて医療機関を受診するという例も少なくありませんでした。

ベーチェット病の発症には、これらの地域に共通する民族的・遺伝的背景に加え、その土地に存在する何らかの外的環境要因が関与していると考えられています。
教科書的な知識としての「好発地域」という理解と、実際の臨床現場で目にする患者さんの経過との間には、少なからず隔たりがあることを実感します。

すべての口内炎が危険なわけではありません

もちろん、口内炎があるからといって、すべてが全身疾患につながるわけではありません。

ただし、

  • 繰り返し出現する
  • 治っても短期間で再発する
  • 眼のかすみ・充血・痛みを伴うことがある
  • 皮膚や関節の症状を伴う

といった場合には、一度立ち止まって全身的な視点で考えることが重要です。

なお、ベーチェット病にみられる口内炎は、見た目だけで特別な特徴があるわけではありません。
多くの場合、一般的なアフタ性口内炎と区別することは難しく、口内炎そのものからベーチェット病を診断することはできません。

だからこそ、「口内炎の形」ではなく、「繰り返し方」や「ほかの症状との組み合わせ」に目を向けることが大切になります。

小さな症状が、診断の糸口になることも

口内炎は、一見すると軽微な症状に見えるかもしれません。
しかし時にそれは、全身疾患の最初のサインであることがあります。 眼科診療では、目の症状を通して全身の状態が明らかになることも少なくありません。
日常的な症状の中に潜む変化を丁寧に捉え、必要に応じて適切な医療につなげていくこと。それが、私たち医療者の重要な役割だと考えています。

 
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